作用素環の数理: ノイマン・コレクション (ちくま学芸文庫)

作用素環の数理: ノイマン・コレクション (ちくま学芸文庫)の詳細

『数学者』ノイマンも数学の真理探究において屈辱と変遷を経たということです。時代背景ですが、カントにおいては、哲学や数学は理念や悟性の領域であり、それを経験に当てはめようとするところにアンチノミーが生じ、ハイデッカーやフッサールは数学や数学的物理学の規定する実在ではなく現存在、実存としての世界を切り拓こうとしました。ニュートンの微分積分のような素朴な数学からワイエルシュトラスのような「厳密な」数学へと時代は進んで行きましたが、カントの集合論から始まるヒルベルトのプログラムはそれを厳密に遂行したゲーデルの不完全性定理によって敗北しました。ノイマンはワイルの「直観主義」についても述べています。『精神と自然：ワイル講演録』（ちくま学芸文庫）を参考にすると、もともとはヒルベルト派であったワイルですが、一時期「直観主義」のブローエルに熱烈に傾頭しました。ワイルはその後、カッシーラにも影響を受けたようです。ワイルはヒルベルトプログラムの失敗について、「無限を集合に持ち込むことに問題がある」と考えていたようです。（現代のゼータ関数において、「数えられる」自然数の「無限」の和が－1/12（矛盾？）となるということについても考えさせられます。）このような時代背景の中、ノイマンは、数学には「先験的」と「経験的」の二面性があるといい、特に「経験」に重きを置いたのです！このことによってノイマンは物理学の様々な分野において自信を持って偉大な業績を上げていくことができたのかもしれません。ノイマンの「屈辱と変遷」とはこのようなことであったと思われます。偉大な業績をどんどんと成し遂げたノイマンも真理の探究や基礎論に対する深刻な苦悩を抱えていたのです。ノイマンは、数学は経験から始まるが、審美的に数学のための数学になりすぎるときが危険信号であるといい、経験に立ち返ることが大切であるのだと言います。「作用素環」はこのような意味で（量子力学と数学の２人３脚という意味で）堅い領域なのだと思います。（ただし、江沢先生のような神の領域だとは思いますが。）